ボランピオ

2016年12月号

【取り組み紹介】プラウド岡山と岡山市の協働事業-アンケート調査による性的マイノリティの児童・生徒の学校生活の状況-

2016年12月28日 19:20 by youi_center
2016年12月28日 19:20 by youi_center
  • はじめに

 プラウド岡山は、性的マイノリティ当事者を中心とした団体であり、2014年から当事者同士の交流会や啓発活動などを実施している。これらの取り組みを通じて数々の語りを聞く中で、性的マイノリティ当事者が学校生活の場において、いかに困難な時間を過ごしてきたか/過ごしているのかが浮き彫りとなってきた。義務教育期間は言うまでもなく、子どもの心身の豊かな発育にとって重要な時間である。しかし、性的マイノリティの児童・生徒にはそれが主たる原因で学校生活を全うできず、自尊心や自己肯定感を十分に育むことが困難である場合が少なくない。この現状を打開する必要があると考えていた矢先、岡山市との協働により、当事者を対象とした学校生活に関するアンケート調査を実施する運びとなった。

  • アンケート調査より

     アンケートは、当事者の声を正確に反映させるために自由記述式の項目を多く設けた。有効回答数152件のうち、およそ3分の2にあたる約100名は岡山県内在住者で、回答者の年代は10代から60代である。そのため、学校時代を振り返った回答が含まれることに留意する必要はあるが、当事者の体験を広く集めた点で遜色ない内容といえるだろう。以下では、アンケート調査により得られた、当事者の主として学校生活の状況を概観する。

     まず、大きな特徴として挙げられることに、周囲の人と何かが違うという違和感をもつ年齢と、自分をLGBTであると捉えるに至った年齢に開きがあることである。すなわち、当事者は自分が何者であるのか、明確に理解できない葛藤を抱きながら数年間を過ごしているのである。葛藤の時期は、義務教育期間とほぼ重なる。こうした困難を抱えた当事者に、彼らのセクシュアリティに対する理解者がいた事例は少なく、40%を下回る。

     身近に理解を示す人が得られにくい当事者の学校生活には非常な孤独や困難が伴う。希死念慮を経験した人は、ゲイやレズビアンなど、ヘテロセクシュアルとは異なる性的指向をもつ人で約50%、身体の性と自身の性自認の間に齟齬を感じる人で約80%であった。自傷行為経験のある人は約45%、学校拒否感のあった人は約40%にのぼる。

     こうした状況におかれた当事者らが、学校生活においてつらかったと述べたこととして、制服やトイレ、更衣、宿泊学習など、対応策を練る必要があるものの他に、周囲の無理解による偏見、それに基づく差別的・中傷的発言などが挙げられる。前者は、当事者との話し合いにより打開策を考えていくことは可能である。しかし、注意すべき点は、カミングアウトをしていない当事者に対して、学校側は対応が困難であることだ。アンケートによると、先生に自分のセクシュアリティについて知ってほしいと思った約40%(64人)の当事者のうち、実際にカミングアウトした例は約30%(19人)と少ない。こうした状況が生じる背景として考えられるのは、後者に挙げたような偏見・差別が蔓延する環境である。この環境が是正されない限り、当事者が心身ともに良好な学校生活を送ることは難しいといえるだろう。

     以上のような当事者の生の声を全掲載した調査報告書は、岡山県内のすべての小中高等学校に配布している。これを受け、県内では問題を解消していくための最初の段階として、性的マイノリティに関する教員研修に取り組もうとする市や学校がいくつかある。これらの動きに対し、プラウド岡山では、当事者同士の交流会を開催する一方で、教員研修の実施や各種啓発活動を通じてセクシュアリティの多様性に関する知識の伝授を促し、偏見や差別からの脱却に努めている。

  • おわりに

 アンケート調査をはじめとする地道な取り組みは現在、学校現場へと浸透しつつある。自治体により積極性に差はあるものの、性的マイノリティの児童・生徒が健やかに育つことに対するまなざしが徐々に教育機関で培われ、教員研修などの取り組みが始まっている。一方で、性的マイノリティの問題は短期的な取り組みで解決するものではなく、長い時間をかけて世間にはびこる偏見や差別に抵抗し、「性的マイノリティ」という言葉を使わずとも当事者が社会に溶け込める空気感を根深く強く醸成させることが求められる。

 岡山県では、差別や偏見のない社会を目指し、当事者の声に耳を傾けることで、これからを生きる子どもたちの豊かな成長に対する視点が芽生えてきた。その芽を枯らさず育てることが、すべての子どもが等しく、心身ともに健康に成長するうえでの核となる。このような取り組みは、一民間団体のみで実現できるものではない。ようやく重い腰を上げた国をはじめとする行政機関などによる継続的な努力が、今後の大きな課題として挙げられるだろう。

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