ボランピオ

2016年03月号

「寄り添う」というかたち~ 「NPO法人おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズ」へのインタビューを通して~

2016年03月25日 18:18 by youi_center
2016年03月25日 18:18 by youi_center

  家族、友人、恋人、先生など、私たちのまわりには「大切な人」がたくさんいます。その「大切な人」が突然、犯罪や事故、自死などで亡くなってしまったら…。きっと心は傷つき、深い悲しみに苛まれてしまうでしょう。そんなとき、その悲しみを話せる相手がいたら、自分だけでは解決できない問題を相談することができたら、心は少しだけ軽くなるかもしれません。

 

 私は現在、社会福祉士になるために大学で福祉の勉強をしています。勉強をしていく中で「社会にはどのような悩みを抱えた人がいるのかな?」、「そのような悩みを抱えた人たちに、福祉ができることって何だろう?」という疑問にぶつかりました。そこで今回、各地でさまざまな市民活動を行っているNPOについて調べました。

これから紹介する「NPO法人おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズ」は、「大切な人を亡くされた悲しみを、少しでも軽くしたい」という思いで活動されています。

 

「NPO法人おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズ」って?

 

 「犯罪や事故、自死などによって家族を亡くされた方を地域でサポートしたい」という思いから、平成17年2月13日に設立されました。

活動は、毎週土曜日(10時~16時)の電話相談と、月に1度、当事者同士で話をする「分かち合いの会」を中心に行っています。電話相談の中では、「家族を失って悲しい」と感じている人のお話を聞いたり、裁判をする際の法律相談が必要であれば、弁護士につなげたりしています。電話での相談や「分かち合いの会」以外にも、犯罪被害者理解のための広報・啓発活動として、学生や県警等に向けた「命の授業」を開催したり、年に1度コンサートを開き、ボランティアと当事者たちの交流を図ったりしています。

 

「被害者になることは誰も避けることができない。だからこそ、多くの人に知ってほしい」活動を続けていく原動力とは

 

 理事長であり、弁護士の川崎政宏さんにお話を伺いました。

 おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズが行っている「命の授業」は、当時18歳だった次男を集団暴行によって失った市原千代子さんが、学校や県警、職員の研修などの場で、自らの体験を交えながら"命の大切さ”について語る活動です。市原さんの「子どもたちのところに命を語りに行きたい」という強い思いから、この活動が始まりました。

 川崎さんは「命の授業」の大切さについて、このように話しています。

 「『命の授業』を授業参観など、子供だけではなく大人も参加できるような場所で開くことで、保護者の方にも犯罪被害者遺族について考えるきっかけの場を作ることができ、地域で被害者遺族の理解が少しでも広まっていけばいいと思います」

「犯罪の加害者になることは避けられます。でも、被害者になることは避けられない。誰もが犯罪被害者になる可能性はあります。そのことを『命の授業』を通して感じてほしい。また、講演を聴いた人々から寄せられた感想は、市原さんをはじめ、私たちサポーターの大きな原動力になっています。その中から『何か力になりたい』と言ってくれる人もいて、それがこの活動に大きな影響を与えてくれています」

 

(写真左 市原千代子さんの写真とともに「命の授業」の活動について掲載されている)


「その人を写し出す鏡になりたい」電話相談を続けるボランティアの声 

 毎週土曜日に行われる電話相談には、午前に一人、午後に一人、ボランティアが訪れています。彼らは相談員として電話の対応を行い、必要であれば弁護士につないだり、専門の病院などにつないだりする役割も担います。電話相談の数には波があり、たくさんかかってくる日もあれば、全くかかかってこない日もあります。それでもボランティアの人々は、当番の日には椅子に座り、受話器が鳴るのを待っています。

 

「『少しだけ話してみようかな』って電話してくる人がいるかもしれない。だから、相談の数は少なくても続けることができる」


(電話相談の様子)

 

 私は「電話相談の中で、気をつけていることはありますか?」という質問を投げかけました。すると、ボランティアの方から、このような言葉が返ってきました。

「私たち相談員は、相談をしてきてくれた人に対して、こうしたらどう?とか、こういうふうに考えたらどう?とかを言う役割ではないです。その人が相談をしていく中で『ああ、私はこういうふうに考えることができたらいいんだな』って、その人自身が気づくことが大切だと思います。理想を言えば、私たちが電話相談の中で、その人を写す鏡になりたいと思っています」

 

「寄り添う」というかたち

 「寄り添う」とは、そばに寄るという意味で使われます。相手と同じ目線で、隣に立って、時には支え、支えられる関係であるかたちが「寄り添う」であると考えます。

私たちは、自分の見ている世界が、他の人にも同じように見えているような気になりがちです。しかし実際には、人によって、物の見え方はさまざまであり、またその時々で同じものを見ていても見え方が変わることもあります。

「大切な人」を失った悲しみは、その人にしか分かりません。私たちがどれだけ想像しても、同じ悲しみを見出すことはできません。しかし、私は想像してほしいと考えます。その人の悲しみに触れ、自分に置き換えて想像することで、自分の中の考えや、その人に対する気持ちに変化が現れるはずです。

被害者遺族は、「大切な人」を失った悲しみだけではなく、ときにマスコミの不適切な対応や、まわりの偏見、無理解などによって、二重にも三重にも傷つけられることがあります。そのような二重の被害に遭わないようにするためには、私たちが被害者遺族の存在を知り、理解することが大切です。これを、私は「寄り添う」というかたちであると考えました。

今回紹介させていただいた、「NPO法人おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズ」は、悲しみを抱えた被害者遺族を「寄り添う」というかたちで支援しています。悲しみを抱えた人々が少しでもほっとできる空間、それを学校や職場、地域の中でも作っていくことが大切であると感じました。

 

ノートルダム清心女子大学人間生活学部人間生活学科
社会福祉士課程3年 矢葺千尋

関連記事

【ゆうあいC 入居団体インタビュー⑦】 『言の葉舎』

vol.44(2024年3月号)

【寄稿】ソーシャルワーカーとして子どもの居場所づくりを考える ~子どもソーシャルワークセンターつばさのインタビューを通して~

vol.43(2024年1月号)

【寄稿】子供たちの自立を支えるNPO法人すたんど

vol.28(2020年03月号)

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)