ボランピオ

vol.28(2020年03月号)

【寄稿】子どもにぬくもりを届ける ~ 一般社団法人ぐるーん ~

2020年03月27日 13:47 by youi_center
2020年03月27日 13:47 by youi_center

この記事は、大学生ライターによる寄稿です。
テキスト・編集・撮影:林奈穂 三宅未佑

「一般社団法人 ぐるーん」では、主に、サポーターと呼ばれる登録会員が、乳児院や児童養護施設で暮らす子どもたちを抱きしめる活動を行っています。今回、私たちは代表の河本美津子さんにインタビューを行いました。

★なぜ抱っこに着目したのですか?

河本さん・・・人はひとりでは生きていけないからこそ、抱っこやハグといった、人の温かさを伝えることが必要だと思ったからです。赤ちゃんだけではなく、大人にも。私たちが「抱っこ」と言う時、物理的な抱きしめるという行為だけではなくて、「言葉で抱っこ」「目で抱っこ」「心を抱っこ」と言いますが、その人の存在を抱っこすることを含みます。例えば、家事などをしていて、子どもと関われない時でも、子どものことを抱っこできない訳ではなくて、抱っこできるんです!「今日何してんのかな?」「楽しそうにしているな」と心を送ることも抱きしめることと言えるのです。

学生の学び・・・物理的な抱っこだけではなくて、態度や目線といった非言語的なメッセージを受け止めて返すことが、人の温かさを伝えられることだと学びました。親が働いており、常に子どもを見守ることが難しい家庭もあると思いますが、帰宅してからの短い時間でも、子どもに目を向けて、思いやりをもって接することが大切であると思いました。

★子どもたちを抱きしめるとどういった反応が返ってきますか?

河本さん・・・施設の子どもは、愛情を求めている子が多く、一般の子どもは面識のない人に抱っこをせがまない子が多いですが、施設の子どもは抱っこをせがむ子が多いです。抱きしめる行為は、私たち自身も子どもを抱きしめますが、その子どもも抱きしめ返してくれます。愛を伝えに行った私たちが、反対に愛をもらえる瞬間ですね。

学生の学び・・・一方的に抱きしめ、温もりを伝えるのではなくて、子どももサポーターを抱きしめかえしてくれる、双方向の温かさの伝え合いの大切さを学びました。

活動の様子

★活動の中で印象に残った場面はありますか?

河本さん・・・ある一歳前後の子どもとの関わりから。食事の時に、聞いたことのない声で泣いたり、椅子から落ちそうになるほどのけぞったりする子がいました。なぜ泣くのか分からなかったけれど、冷静になって考えてみると、親から虐待を受けていたかもしれない子が、見知らぬ大人からご飯をもらうなど、信頼できないのは当たり前であると痛感させられました。だから、私たち大人が一番しなければならないことは、その子どもの信頼を全力で勝ち取ることだと思いました。人が失った信頼は、人でしか取り戻せません。

だからこそ、施設に行ったら、最初に必ずその子の名前を呼ぶ、遠くにいても微笑む、抱きしめる、その子のやりたいことで一緒に遊ぶなど信頼関係を築けるように心掛けました。そうすると、食事の時、安心して食べてくれるようになったのです。

★サポーターになるきっかけと流れについて

河本さん・・・登録サポーターは現時点で全国に2000人います。サポーターは女性が多いですが男性もいます。年齢層は、10代から80代ですが、最も多い年代は40代です。サポーターの存在を知るきっかけとして、1番多いのがネット検索です。虐待を受けた子どもに何かできないかという思いから活動に繋がります。個別に乳児院に行くといっても、受け入れが難しい上に、何をしていいのか分からないけど、抱っこならできるという考えから活動に参加される人もいます。サポーターになるためには特に研修などはなく、社会的養護や子どもの養育に関することを活動の中で勉強します。ぐるーんの活動に参加するにあたって、資格は問いません。

★イベントとその他活動

河本さん・・・年に2回アウトドアのサバイバルイベントや、年に4回花育ワークショップとお菓子づくりワークショップを施設の子どもたちと行っています。花育ワークショップでは、子どもたちに教えるのではなくて、自由に生けてもらうことを大切にしています。子どもたちが自分の好きな花を自由に選び、決断するプロセスが大切です。花育という言葉には、花を使って心を育てるという意味が込められています。そして、大切なのは、子どもを見守り承認する大人が傍についていることです。

学生の学び・・・大人の思う方法を押し付けるのではなく、子ども自身が自由に花を選び、思ったように生けることが、子どもの意思を尊重し自己決定していくことに繋がると実感しました。このような活動を通じて、自分の意思で決断する力を身につけていくのだと思います。子どもの持つ力や想像力を引き出せるかかわりができるようになりたいです。

花育ワークショップ

★今後の活動に対する思いを教えてください

河本さん・・・日本人は、児童・障害者に対して、特に人権意識が低いと思います。障害者学級、特別支援学校などがいいと言う人もいるかもしれないですが、健常者の中にいるのが当たり前になれば、助けることもできるし、あの子は足が悪いから、僕があの子の足になってあげて、その代わり助けが欲しい際は手伝ってもらい、お互いに助け合う関係性が大切ではないかと思います。

子ども自身に子どもの権利があるんだよということを知ってもらうことで、その子たちが大人になった時、世の中が変わることを願っています。また、親自身のケアも必要だと考えます。子どもに暴力をふるってはいけない、暴力をふるえば罰するというのは逆効果です。親の行為を否定するのではなく、親自身も子どもを殴らないといけないくらい辛さを抱えている存在であることを、社会全体が認知しておく必要があると思います。

学生の学び・・・健常者と障害者という風に分けるのではなく、お互いが共に生活し、困りごとがあれば、互いに助け合うような相互関係が大切であると思います。すべての人は一人では生きていけないのです。

また、子どもに暴力をふるってしまったことは許されることではないですが、法で罰するのではなく、なぜ子どもを虐待してしまうのかその背景に着目して、虐待を繰り返さないために、予防するために、親のケアに力を入れていくことの大切さを、一人ひとりが認知しておくことが必要だと学びました。

★おわりに

インタビューを行う前は、抱きしめる行為に着目していましたが、実際に話を伺うと、「目で抱っこ」「心を抱っこ」「言葉で抱っこ」など、日々のさまざまな関わりを通じて、ぬくもりを子どもに伝えること、また、一方的に抱きしめるだけではなくて、お互いに愛情やぬくもりを伝え合うことが大切であると学びました。

親はこうあるべきといった理想を自分で決めつけてしまうと、自分の子どももこうあってほしいと価値観を押しつけてしまいかねません。そうすると窮屈な関係になってしまいます。もっと気負わず子育てができる環境が必要だと思います。私たちもその環境要因であることを忘れず、どうすれば子育てしやすい環境になるのか、これからも考えていきたいと思います。

★活動に興味を持たれた方、参加したい方へ

子どものために何かしたいという思いから、「抱っこ」ボランティアとして乳児院や児童養護施設を訪問する活動や、ワークショップ等の活動を行っています。子育てや家庭の悩みを、サポーター同士で相談し合いながら活動することができます。関心のある方は、ぜひ、ワークショップなどの活動に参加してみてください!メンバーとしての参加は、養成講座の受講が必要ですが、まずは代表の河本さんにご相談を!!

 「一般社団法人 ぐるーん」についての詳細は、
HP:https://www.gruun.org/
Facebook:https://www.facebook.com/gruun.org  をご覧ください。

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