新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、生活に困難を抱えた家庭を支えるため、岡山県内でも多くの市民活動者が立ち上がりました。今回は、その中で、食料支援から活動を広げ、現在は常設の居場所づくりに取り組む「水島こども食堂ミソラ♪」の井上正貴さんをゲストにお招きし、話を聞くとともに、私たちにできることは何なのか、考えていきたいと思います。
テキスト・編集:河津 泉
記事監修:西村 洋己(ゆうあいセンター副センター長)
撮影:かなみつ こうたろう(ゆうあいセンターボランティア)
左から 井上さん、河津さん
【活動に至るまで】
河津:まずは、活動を始められた経緯をお伺いしてもよろしいですか?
井上:僕が活動に関わるようになったのは2017年からで、倉敷で生活支援に取り組む団体で、中学生の学習支援を始めたのがきっかけです。そこでは、学習支援をメインにしつつも、家庭訪問をして、生活支援にも関わることもありました。そうやって”家のなか”をみることで、自分の想像を超えた生活をしている家庭を垣間みることができました。
たとえば、家に入った時に、玄関からみえる風呂場に、無数のシャンプー容器がある。シャンプーがなくなったらその容器を捨てる、それを整理する余裕すらないのだと感じられる光景でした。また、血縁関係のない父親と折り合いがつかず、虐待を受けている児童と出会って、匿ったりすることもありました。もちろんすべての子どもたちがそうであった訳ではありません。多くは放課後に寄って、勉強して家庭に帰っていく。でもこのような、しんどさを抱える家庭もあるのも事実です。
しかし、こうした家のなかはなかなか見えない。僕も仕事を始めるまでは見たことがないものでした。困難を抱えている家庭の子どもたちをケアする人や場所が少ない状況を目の前にするなかで、水島で子ども食堂をつくる機運が生まれ、そこの実行委員となったのがはじまりです。」
写真提供:水島こども食堂ミソラ♪
河津:見えていない課題に気づいた」ことが、井上さんの活動のきっかけだったのですね。チャリティーサンタも課題を「知る」ことがある事業をはじめる大きなきっかけとなりました。私たちはいわゆる、困窮家庭を支援するための団体ではありません。もともとはクリスマスイブの夜にご家庭にサンタクロースボランティアが訪問して、その際に家庭からいただくチャリティー金を使って、困難のなかにある子どもたちの支援を行うことを主に活動してきました。
しかし、自分たちの顧客調査をした際に、いわゆる経済的にしんどい家庭に全然活動が届けられていないという現状に気がつきました。チャリティー金をもらう活動だったので、比較的余裕のあるおうちが多かったんですね。実際に困難のなかにあるひとり親家庭にきくと10世帯に1世帯は経済的な事情で「サンタクロースはこない」と回答していたんです。こうした調査をきっかけに経済的に厳しい家庭に向けての事業も開始しました。
写真提供:チャリティーサンタ岡山支部
【直接、家庭に届けること】
河津:実際に子ども食堂での活動はどのようなものでしたか?
井上:「水島こども食堂ミソラ♪として、2017年の8月にプレスタート、9月から定期的に活動を開始しました。毎月第3土曜に集まりを2020年の2月まで行いました。みんなで集まって、団欒する。昔はどこにでもあった風景のなかにある温かさを感じていたのですが、そこで起きたのが新型コロナウィルスの感染拡大です。あの時、急に”集まる”ことが困難になってしまった。また学校では一斉休校になりました。ひとり親や困窮世帯にとっては、学校給食は大事な食事です。その他にも生活の要になるインフラが途切れてしまうことが心配されました。そこで、まずは食料支援の必要性を感じ、フードシェア会を始めました。食べ物を集め、それを必要な家庭にシェアするという活動です。約100人分の食料が行きわたったと思います。
しかし、フードシェア会の直後、岡山で初めての新型コロナの陽性者が出て、より警戒度は高くなり、できる雰囲気ではなくなってしまったんです。そこで各家庭に直接食料を届けることをはじめました食材を集めることまでは一緒ですが、そのあと【集まる】のではなく、車を走らせ各家庭に【届ける】方法に変えてみたんです。」
写真提供:水島こども食堂ミソラ♪
河津:ちょうど、私たちもその頃、家庭を直接まわる活動を行いました。元々、困窮世帯に向けて年間の体験活動の支援を始めようとしていたところで、駄菓子の大町さんと一緒に、子どもたちを集めての催しものをする企画を考えていたのですが、新型コロナで集まることが難しい状況になってしまったんですね。しかし、そうした家庭に声を聞くと生活のしんどさに加えて、子どもが家での自粛にストレスを抱えていることや、体験などが失われているということが見えてきました。
そこで、何かできないかと考え、大町さんの秋山社長さんが扮する駄菓子おじさんという、いわゆるチンドン屋さんと一緒に家庭を訪問し、お菓子を届ける活動を行いました。アウトリーチで体験を届けにいくという普段のサンタクロースの活動を企業さんと一緒にやったんですね。サンタクロース訪問の経験で、各家庭にイベントごととして訪問しているのは慣れているはずなのですが、それでもやはり1日に車で回れる家庭は限られており、希望するすべてのおうちには回ることができませんでした。それでもたくさんの嬉しい声に出会いました。
写真提供:チャリティーサンタ岡山支部
実際に回ってみると、お子さんも喜びましたが、親御さんの方がテンションがあがって喜んでいたり、社会とのつながることで、温かさを感じているようでした。大人も子どももストレスが高まっているなかで、そこをケアすることができたのかなと考えています。個々の家を回るのはなかなか大変で、労力もかかることが多いですが、直接訪問することで見えたとこと多いですね。
【地域でのつながりを生み出していく】
河津:井上さんはそうした活動を続けるなかで何か変化がありましたか?
井上:とりあえず、支援を受け付けることも含めて、動いている様子をSNSなどを中心に発信していたんですね。そうすると、食料配布をしている人がいるらしい、そんな活動があるらしい、という噂をきいて、SNSをたどって連絡してくれた家庭もありました。家庭だけでなく、支援の繋がりも生まれていきました。たとえば、色んな団体や企業と連携して、中継地点を増やしたり。中継地点というのは、他にも困窮家庭の支援をしている場所で、そこに集まった食材や支援品をお渡しすると、そこから支援を必要としている家庭に届くといったものです。自分たちの活動に共感してくれて、いろいろと支え合える仲間もこの時に増えていきました。想いをもって行動することで、地域の中で多くの人と繋がり、支援の輪が拡がっていったように思います。
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井上 正貴(いのうえ まさき) 1982年岡山県倉敷市水島生まれ。生活保護や生活困窮の家庭の子どもたちの学習支援事業に携わることで、世の中の矛盾にさらに気づきを深め、地域で子ども食堂の活動に関わり始める。2019年の7月より、水島こども食堂ミソラ♪実行委員会の代表を務め、現在は子ども食堂や地域の居場所機能を併設した居場所を設置。 |
河津:社会のなかで、家族以外に自分のことを気にかけてくれている人がいるというのは大きなパワーになるのではないかと思います。情報を得るのが苦手な家庭も多いなかで、発信はとても大切ですよね。私たちは普段は「サンタクロース」というわかりやすいアイコンをもって、活動をしているのでそれが、家庭にも繋がりやすいものになっていると思います。井上さんたちの活動は、家庭が孤独から抜け出す繋がりを生み出すものですよね。それをとても大切にしているように思います。
井上:「そうですね。よく、なぜ子ども食堂を始めたのかということをよく聞かれますが、それは僕が水島に生まれたからなんですよね。自分の地域の思い出の中にある温かさの記憶をつないでいくような部分があったからだと思います。核家族化が進み、地域のつながりが薄くなってしまった現代でも、居場所をつくることで地域の温かさを取り戻すことができた。新型コロナの影響で、みんなで団欒をする機会をつくることは難しくなったけれど、それでも人との繋がりやあたたかさを大事にできる場所は、この時代だからこそとても大事なものだと思います。そんな時、50人が一気に集まるのはむずかしいけれど、毎日数人ずつであれば、集まることができるのではないか?と考えるようになりました。毎日集まることのできる居場所をつくる・・・・言葉では簡単ですが、毎日公民館をかりる訳にはいかないし、実際は課題ばかり。そこで考えたのが常設の居場所、拠点を持つことでした。
もちろんこれも簡単なことではありませんが、フードドライブをするなかで、つながった企業や団体が一緒に居場所として使える物件を探すための声かけを進めてくれ、2020年12月から「常設の居場所」がスタートしました。このなかで「居場所」をひとつの目印として、困難のなかにある人も、支援も様々に集まるようになりました。常にあることの意味を感じています。」
【豊かさってなんだ? 子どもの貧困=「大人の歪んだ豊かさ」】
井上:「僕は、子どもの貧困=大人の貧困ではないと思うんです。子どもの貧困=「大人の歪んだ豊かさ」だと思っています」
河津:子どもより絶対的に大人の数が多いはずなのだから、本当に子どもファーストになれば、きっと子どもたちの未来は変わるはず。しかしながら、大人の都合、井上さんの言葉を借りれば「大人の歪んだ豊かさ」のせいで、子どもたちの未来を取り上げている部分があるということですよね。本当に社会にとって良いことや、人間にとって必要なことはあるはずなのに、目の前の欲求などから選択を取り間違えていることが多くあるように思います
井上:そうですね、社会の形そのものを変えないと、とりこぼすものがあるのではないかと思っています。」
河津:私たちは普段「子どもたちのために行動できる大人を増やす」ということを大切にしています。同じ人がいろんなところに寄付をするのではなく、今まで動いていなかった人をどう動かすか、気づいてもらうかは私たちの大きなミッションだと思っています。また、困窮支援から始まっていない団体だからこそ、今までそういった課題に取り組んでいなかった人たちを巻き込んでいくのが、私たちの役割だと思っています。私たちは、子どもたちの心に残る思い出や体験を届けることを大切にしており、福祉分野の最前線ではないですが、行政支援がつきづらいところだからこそ、ここを一歩目にしていきたいと考えています。
井上:「それはとても大切なことだと思います。困窮世帯のは食料品の支援や学習支援だけではなくて、様々な体験の機会を提供する活動はとても重要だと思います。」本当に豊かなものはなんなのか。覚悟をもって考えなくてはならないですよね。この時代だからこそ、様々な団体が手を取り合い、子どもたちのために何ができるかを考えていきたい、井上さんとのお話はそう考えることができる時間でした。また今後も、連携しあいながら、すべての子どもが豊かな子ども時代を過ごすことができるように、働きかけていきたいと思います。
◎取材・執筆者の紹介◎
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河津 泉(かわづ いずみ) 大学生時代より、地域づくりやボランティア活動に従事。大学卒業後は一般企業、大学職員などの経歴を経て、NPO業界へ。現在NPO法人チャリティーサンタで主に子どもの貧困に関わる事業や行政との協働事業などを担当。チャリティーサンタでは「家庭での大切な思い出」を大切にし、ボランティアがサンタクロースに扮して行うチャリティー活動と、それによって集まった収益金で世界中の子どもたちを対象に支援を行っている。社会的認知度が高く、格差が現れやすい行事にフォーカスしながら、クリスマスをスタートとして、個人や企業が手を取り合い「社会全体で子どもを支え合う」気運を醸成していくことを目指している。岡山県岡山市出身。 |
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