今回は、小中学校の不登校やひきこもり支援にはじまり、現在では、高校生や大学生・専門学生、成人を迎えられた人たちの社会的自立にまで幅広く支援展開をしているNPO法人「リスタート」とNPO法人「すたんど」の取組についてご紹介します。
林 尚彦 理事長に、個人の活動から現在のNPO法人設立、「地域若者サポートステーション」の制度施策化に関われた経緯と、現場から見たひきこもり・不登校、女性支援ニーズの変化についてお聴きしました。
① まずは、活動を始めたきっかけについて教えてください。
「お父さん、スポーツがしてみたい」
今から26年前。当時4,5才の息子に言われ、地元のサッカーと剣道の指導員を始めたのですが、その指導ぶりを見ていた親御さん達から「実はうちの子が学校を休みがちで・・・」とか、「林さんだったら、子どもたちと同じ目線で聴いてくれるんじゃないか」といった相談を受けるようになりました。それが、活動をスタートさせたきっかけです。個人の地域貢献ボランティア活動の一環という感じですね。
② NPO法人「リスタート」設立の経緯について教えてください。
賛同して下さる方、共に活動して下さる仲間が何人も増え、「組織にしていきたい」という話が挙がってきました。
そこで、平成8年頃は、「岡山ひかりクラブ」という名称の団体をつくり、主に小学校や中学校の不登校の子どもたちの相談を聴いていました。学校に行けなくなってしまった子どもたちの理由はさまざまですが、いじめや非行が原因のケースが多かったですね。
平成14年頃から、20歳を過ぎて学校に行っていない、働いてもいない、職業訓練も受けていない、いわゆる“ニート(Not in Education, Employment or Training)”が社会問題化されてきました。
支援をする仲間で「ひょっとしたら、もっと岡山にも、“ニート”状態にある人がいるかもしれない。不登校支援の幅を、小・中・高等学校だけでなく、もっと大人に目を向けていこう!」という話になり、“いつでも、だれでも、どこからでも、新しい自分の人生をやり直せる”という意味で「リスタート」に名称変更しました。
その4,5年後の平成18年に「地域若者サポートステーション」(※)という施策推進に向けて県から声がかかったのを契機に、NPO法人格を取得した結果、中国地方初のモデル指定を受けました。
※「地域若者サポートステーション」とは・・・
地域若者サポートステーション(愛称:「サポステ」)では、働くことに悩みを抱えている15~49歳までの皆さまを対象に、就労に向けた支援を行う機関です。厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがある民間団体などが運営しており、全国の方が利用しやすい「身近に相談できる機関」として、全ての都道府県に設置されています(全国177か所)
③ 厚生労働省の「地域若者サポートステーション」モデル指定後の支援はいかがでしたでしょうか。
モデル指定団体として、国規模でアウトリーチ、ドアオープン(本人と対面する)、アウトプット(就労等)をどう進めるか、どういう機能があればよいか等、何度も霞が関に行き、話し合いました。
しかし、国の事業として支援をするというのは、訪問回数の制限等があり、正直難しかったです。メンバー間で「こんな支援がしたくて、今まで続けてきたんじゃないよね」という話になり、2013年に受託を辞めました。
それから早10年になりますね・・・。
④ 普段から相談支援にあたり、心がけていることがあれば教えてください。
相談支援にあたって、僕や主要メンバーは、心理学やキャリアカウンセラー取得したり、勉強したりしました。経験や知識を持っている人材も必要ですが、大事にしたのは、感覚です。今は12、13人のスタッフがいます。
18-35才未満までの若者に対しては、働き続ける気持ち、社会に耐えうる気持ちがとても大切です。じっくりお話しながら、心の基盤を整備させていただくことを心がけています。
対して、18才以下はタイムリーに、留年しないことが大切で、関わり方が違うんですよね。そのために、18才以下の就学児童を対象としたNPO法人「すたんど」を立ち上げて、岡山大学生ボランティアのみなさんと一緒に、学習支援等、別メニューで支援しています。
⑤ 相談・支援内容としては、どのようなケースが多いですか?
ほとんどの相談は保護者から受けますが、薬物依存やアルコール依存、過去に警察沙汰になったケースも多いです。スタッフに危害が及ぶ場合以外は、お受けしています。
コロナ禍では、活動制約を受けざるを得ず、活動自体が半分以下にまで落ちました。実質2年以上の間、新規の対面相談がグンと減りましたが、最近は徐々に戻りつつあります。
また、長年ひきこもり状態にある方が入居できるステイハウス(寮)がありますので、親御さんを包丁で脅したり、家中に油を巻いたりするケース等は、警察の生活安全課、刑事課と連携して寮への入所していただき、食事提供・投薬・健康チェックを含めて支援しています。企業や相談支援事業所等とも連携し、入所後、約2ヶ月間で就業を含めた社会復帰につなげています。
⑥ 20年以上、ひきこもり支援に関わられていて、支援ニーズの変化として感じることはありますか?
ネット通販で在宅で何でも買えるようになったせいでしょうか?ここ4、5年は、ひきこもり状態にある女性(女子)の相談が非常に多いです。親御さんのお金を取り上げる経済的支配に加えて、親御さんを刃物で脅したり、家に入れさせない等、深刻な家庭支配の相談が増えています。
背景としては、女性の「家事・手伝い」が減り、社会参加、社会的自立が当たり前になりつつあり、親御さんの感覚、意識が変わってきたからかもしれません。
⑦ 最後に、今後の抱負、取り組んでいきたいこと等について教えて下さい。
今後10年間で、ステイハウス(寮)、特に女性専用の寮を増やしたいと思っています。いくら訪問しても支援できないケースもありますし、これまでの経験から、入居すれば数年で確実に社会につながることができると思っています。特に、「18才未満の子を預かってほしい」という声も多く、早急に何とかしたいですね。
社会に出て頑張っている人、サラリーマンから独立して自営業をし始める人など、嬉しい瞬間や親御さんからの感謝があるから頑張れます。
支援に対しては、根拠のない自信があります。(笑)今後は、スタッフの教育や、他団体への研修も継続して実施していきたいです。
特定非営利活動法人 リスタート
〒703-8201 岡山市中区四御神136-25
TEL:086-279-3788 FAX:086-279-3788
ホームページ:http://npo-restart.jp
Mail:info@restart.jp
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