ボランピオ

vol.31(2021年02月号)

【特集】社会とかかわる大学生のリアル

2021年02月08日 10:12 by youi_center
2021年02月08日 10:12 by youi_center

今回取り上げるのは「社会と関わる大学生のリアル」。2000年以降に生まれた彼らは、すでにインターネットが普及していて、それが自然と生活の中で取り入れられている世界を生きてきた世代。そんな彼らが思う今の社会、そして関心を探っていく。

また、この取材は1月17日に行われた。ボランティア元年と言われている阪神大震災が起きた1995年から26年。社会は価値感の多様化が進み、社会課題は複雑化している。さらに現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでの生活様式の見直しを迫られている。大学生に与えた影響、そしてそのような中でも、社会と関わる活動を続ける彼らの原動力とは何か、聞いてみた。

テキスト・編集:井口 陽平
記事監修:西村 洋己(ゆうあいセンター副センター長)
撮影:かなみつ こうたろう(ゆうあいセンターボランティア)

 【2人の大学生の活動と、そのきっかけ。】

ーーそれではよろしくお願いします。まずは自己紹介と、今どんな活動をしているかを聞かせてください。

三浦:岡山大学2年の三浦雄大です。岡山大学の被災地支援団体「おかやまバトン」の副代表をしています。「おかやまバトン」は、主に小中学生の子どもたちに対して防災教育の講座をしたり、公民館等で行われている地域の防災活動に協力したりしています。

――「おかやまバトン」は、私が大学生のころに設立された団体で、当時から関わっていますが、初期のころと現在とでは、活動内容が変わってきていますよね。

三浦:そうですね、初期のころは、東日本大震災で被災した東北の子どもたちを岡山に受け入れ、岡山の学生や地域の方と交流をする「受け入れプロジェクト」を主軸に活動していました。その後段々と被災地との関わり方も変わってきましたが、過去の先輩たちの活動を見てきて、今の自分たちにできることは何かと考えたときに、岡山での防災啓発というキーワードが出てきました。


「おかやまバトン」の活動写真 
――活動に参加するきっかけは何だったの?

三浦:西日本豪雨災害がきっかけです。私は出身が愛媛県で、大洲市というところに祖母が暮らしています。そこでも、多くの家や橋が崩落していました。祖母の家は幸いにも無事だったのですが、地域のお手伝いに行ったときに、被災地の現状を目の当たりにして、今まで意識していなかった防災の事を考えるようになりました。そのことから、今、大学生の時間があるうちに、何か自分にも何かできることはないかと思い、「おかやまバトン」の活動に参加するようになりました。

――実際、活動してみてどうですか。

三浦:防災の活動は、すぐに成果が出る活動ではありませんが子どもたちにゲームを通して学んでもらったり、非常食を食べてもらったりすることを通して、少しずつですが、防災意識を高めていけているのかなと感じています。

三浦雄大(みうら ゆうだい)
岡山大学法学部2年生。被災地支援団体「おかやまバトン」副代表。愛媛県今治市出身。小学校から高校卒業まで剣道。小学生の間に転校を3回経験し、うち1回は米軍基地の目の前のマンションに引っ越す。大学では勉強にボランティアに充実。趣味は筋トレだが、最近サボりがち。

――「おかやまバトン」の他のメンバーはどういう意識で関わっているんだろう?

三浦:みんながみんな、私のように災害の現場を見て参加しているというわけではないですが、せっかく時間があるなら何か社会の役にたつ活動がしたいというメンバーが多いですね。

――続いて、樫本さんお願いします。

樫本:「学生イベント企画団体とり.OUS」に所属している岡山理科大学1年の樫本梨世です。私たちは、「価値のあるエンターテインメントを創造する」をミッションに、学生が夢のきっかけと出会える社会を目指して活動をしています。なので、これ、という限定的な活動ではなく、様々なイベントの企画、広報、実行を全て学生主体でやっています。


「とり.OUS」の活動写真 

――活動のきっかけは何だったの?

樫本:私は高校生の頃、地元の徳島で清掃のボランティア活動に参加していました。その活動に関わっている大学生たちがすごくかっこよく、キラキラしていて、私もあんなふうになりたいと思っていました。大学に来た時に、その想いを叶えられそうな団体があったので、ここだなと思って入りました。

――実際やってみてどうですか?

樫本:すごく大変ですね(笑)高校生の時は、大学生と大人がいて、高校生が実務を担当することは少なかったんです。けど大学生になると、全て自分たちでやらなければならない。一つのイベントを実行するのに、こんなにもすることがあるのかと、初めて分かりました。大変だけど、楽しいです。

――裏側が見えたってことよね。でも、その中に楽しさを感じていると。

樫本:そうですね。地域の大人の方や、市役所の方、会場の方など、高校生のころは関わっていなかった方々と関われて、やりがいを感じています。より自分が社会と関わっている感じがして、すごく楽しめています。

樫本梨世(かしもと りよ)
徳島県出身。徳島の高校を卒業し、2020年岡山理科大学に進学。高校時代は生徒会活動やNPO、地域活動に積極的に取り組む。大学入学後、学生イベント企画団体とり.OUSに所属する。今後、岡山で活動する他の学生団体やNPOの活動にも参加したいと考えている。

 

――三浦くんも、そういったことはありますか?

三浦:これは新型コロナウイルス感染拡大前ですが、「真備っ子サマー1デイキャンプ」という企画で、遊び場がなくなった真備の子どもたちを大学に招待して、一緒にスイカ割りやお絵描きなどをして遊ぶ企画が印象に残っています。お子さんをほぼ半日お預かりするということで、保護者の方の心配事への対応や、子どもたちのアレルギーへの注意など、やはり準備期間は本当に大変でした。

【新型コロナウイルスと大学生の社会貢献活動】

 ――新型コロナウイルスの感染拡大によって、二人の活動に変化はありましたか?

三浦:会議はオンラインでできても、イベントはやっぱり難しいと感じています。特に子どもたち相手の場合、画面越しだと、こちらの意図が伝わりづらく、また子どもたちがどう考えているかも分かりにくいなと感じますね。それでも、この状況下で、できることを模索しています。例えば、家からオンラインで参加するのであれば、家にある防災グッズをそれぞれで見つけてみるとか、オンラインだからできることもあるのかなと考えています。それは実はイベント会場で全員集まってするよりも、効果があるのかもと思っています。

――樫本さんは高校生のころのボランティア活動はコロナ前に行っていたと思うけど、コロナ禍になって活動としてはどうですか?

樫本:三浦さんと似ていますが、まず近づくのがダメというのが難しいなと感じます。私たちのイベントは、参加者の皆さんとともにその空間を作っていきます。それがマスク越しなので、表情が見えず、感情が分かりにくく、イベントの楽しさをつくるのが難しいなと感じています。ただ、うちの団体でも、オンラインでのイベントも今年初挑戦していて、この状況にあったものを試行錯誤しています。

――活動をしているとき以外で、大学生として、コロナの影響があったことがありますか?

三浦:元々僕はあまり外に出るタイプではなかったですが、ずっと自粛期間が続いていくと、だんだんと、外に出たくなってきました。キャンパスに行くことがなくなり、友達と会う機会も減り、本当に今自分は大学生なのかな?と思うことが増えました。また、オンライン授業が増えていく中で、やっぱりリアルな講義じゃないとなかなかやる気も起きないなとも気づきました。

樫本:大学に入ってずっとオンライン授業で、大きい教室での講義とか全くなく、夏くらいまではまだ高校生の気分でした。オンラインだと、授業も集中できないし、人と会えないのはやっぱりさみしいですね。

――人との関わりという意味では、団体外で社会と関わる機会がありますか?

三浦:結婚式の手伝いのアルバイトをしていたのですが、結婚式自体がなくなり、出勤日数も減り、結果的にやめちゃいました。それからアルバイトは何もしていないですね。またウエイトトレーニング部にも入っていたのですが、ジムが使えなくなって、退部しました。今は「おかやまバトン」以外で社会とつながれる機会がないですね。でもその分、活動が癒しになっています。

樫本:私は団体外でも、岡山でボランティア活動に参加したり、地元でのイベントを企画もしています。人数制限をしながらの活動ですが、もっと外に出て行って、いろんな人の話を聞きたいです。新しい考えとか、価値観を知るのが好きで、行動していますね。そうすることで、高校生のころ憧れていた大学生のような存在になれるよう成長したいなと思っています。今の高校生に、同じように思ってもらえると嬉しいですね。

――コロナの「収束のめどがなかなか立たない中ですが、2人はこれからどんな大学生活を送っていきたいですか?

三浦:リアルな授業がないとマイナスっていう訳ではないし、むしろ拘束される時間がなくなったので、自分で時間を上手に使って、いろんなことを学んでいきたいです。将来は弁護士を目指しているので、勉強も頑張ってきたいです。

樫本:2年生では全力で活動して、3年生では臨床検査技師の国家試験の勉強に注力したいと思っています。元々医療系に興味があって、その中でも私は細胞を見るのが好きなんです。そんな仕事はないかなと思っていたとき、高校生の時の職業体験などを通して、臨床検査技師になりたいと思って、進学先の大学も選びました。けど今、こういう活動をしている中で、少し迷っているところもあります。今年、しっかりと活動する中で、見つけていければいいかなと思っています。

――2人とも将来の方向性がある程度決まっている中で、今の活動に関わり続けているのはなぜですか?

三浦:子どもたちと遊んだり、お年寄りの方々とゲームをしたり、もしやっていないとしたら、ずっと家の中でいて心も荒んでいたと思う。みんなと楽しくできているのが生活の中の癒しになっていますね。いろんな人と関わる機会が増えて、より大学生活も楽しめているし、「おかやまバトン」が頑張る原動力になっています。

樫本:私はストレス発散の場所になっています(笑)話すのが好きなので、人前で自分の考えを伝えたりすることはすごく自分を成長させてくれているなと感じています。

【今の大学生が描く、今後の社会】

――2人は普段活動しているメンバーとそうじゃない友達とで、何か違いがありますか?

三浦:団体内では、真面目に楽しんでいるって感じで、例えば学科の友達とは、ふざけて楽しんでいるって感じです(笑)

樫本:私は高校生のころからすごくその違いを感じています。ボランティアなどの地域活動をしているというと、「意識高いからやっている」というイメージがどうしてもあって。共有している「楽しい」のジャンルが違うと思っています。活動しているメンバーは、目的があって集まっているので、活動の話は真面目にできるけど、団体外となるとそうはいかないですね。「とり.OUS」のイベントでは、活動をしていない層にもできるだけアプローチしていきたいと思っています。

――「意識高いね」と言われるのは私もわかりますね。もっとわかってくれたらなと思う?

樫本:えらいね、すごいねと言われるけど、そう言われるためにやっているわけではないから、違和感はあります。ただ大学の友達の中には、わかってくれる人もいて、人間関係によるかなと思います。

三浦:しょうがないかなとは思うけど、みんなに来てほしいというのも無理があるので、まず自分のまわりの手の届く範囲には、自分がやっていることとか、防災について知って貰えたらと思うし、それが始まりだと思います。

――これからの社会の中で、変えていきたいことはありますか?

三浦:これからも今と同じようにできるかわからないけど、やり方はいろいろあるはず。それはボランティアでも、その他のことでも。代わりのやり方を見つけていける社会になっていたらいいなと思います。そんなに暗い未来は想像していないです。ただ、変わる勇気がいるんじゃないかなと思っています。ただそうは思うものの、昔はああいうことができてよかったなと思うこともある。変わり方もわからないし、変わった後もわからない。難しいから今のままでいいかと思ってしまうこともあるし、そんな自分が嫌です。けど、誰しも初めてのことなので、しょうがないかなと思います。

樫本:私は偏差値で人間をはかられるのが嫌なんですよね。高校生のころは、地域活動に参加することに反対されることも多くて、そんなことより勉強だと言われていました。今でも活動をしていて、たまにそういう大人と出会うと、嫌だなと思います。そこは、変えていきたいですね。

――自分たち若者でも、社会を変えていけると思うことはありますか?

三浦:例えば今話題の判子のことなど、大きなことはなかなか難しいかもしれない。でも今回、画面越しでもできる防災教育があると気づいたように、若者ならではの柔軟性を使えば、変わっていけるのではないかなと思う。

樫本:大人が若者の成長を助けるのもいいけど、若者が同じ若者にとっての社会に関わるきっかけになれるんだなと思います。自分たちが活動していることが、もしかしたら何かを変えるきっかけになるかもしれない。そうして影響を受ける人やタイミングが多い社会になればと思います。

――それでは、社会と関わりながら活動をしている先輩として、これからの高校生や若者に対して一言お願いします。

三浦:若者でもやれることはたくさんあって、それは自分のためにもなる。自分が周りに与える影響は意外と多いと思います。社会と関わることで、自分も周りも幸せにできることがあると思うので、「おかやまバトン」じゃなくても、何か自分でやって貰えるといいかなと思います。あ、でも「おかやまバトン」もぜひ(笑)

樫本:大学生になって、何かやりたい、自分を変えたいなと思っていれば、それが一番達成できるのがボランティアや地域活動だと思っているので、そういう思いがあればぜひ「とり.OUS」に来てください!

取材を通して、2人とも、今取り組んでいることが、確実に人生に影響を与えていることが分かった。社会と関わることが、自らの人生の糧になり、より鮮明に自らを形作り、未来を見つめるきっかけになっているのかもしれない。また、新型コロナウイルスの影響は大きく、これまで想像していた学生生活は送れなくなった。友達と過ごす時間が少なくなり、寂しさや無気力感を持ちながらも、それぞれの活動の中で、そのやり方を模索し、むしろそれを楽しんでいるような姿が印象的であった。「そんなに暗い未来は想像していない。」そう語る若者に、未来への希望を感じたインタビューだった。

 

◎取材・執筆者の紹介◎

 

井口 陽平(いぐち ようへい)

1991年生まれの29歳。岡山理科大学工学部卒業。大学入学直前に起こった東日本大震災をきっかけに、学生時代は国内外問わず様々なボランティア・NPO活動に関わり、若者の社会参画の必要性を感じる。大学卒業と同時に、NPO法人若者応援コミュニティとりのすを設立し、代表理事を務める。「若者と社会をつなぎ、持続可能な人間コミュニティを形成する」をミッションに、若者が社会と関わる入口支援、伴走しながらの活動支援、納得した社会への出口を整えるキャリア支援の3つの軸で活動をしている。現在は、キャリア支援を企業に対しての人材採用支援にも広げ、若者と社会の関わりを模索し続けている。株式会社リンガーリンク代表取締役、一般社団法人Community rapport理事、一般社団法人人事システム研究アカデミー理事、岡山県中小企業団体中央会企業人材支援コーディネーター、SDGsネットワークおかやま若者部会代表

 

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