1.ひきこもりとは
"ひきこもり”とは、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態(買い物など他者と交わらない形での外出をしていてもよい)」と厚生労働省のガイドラインに定義されている状態である。
平成22年の内閣府の「ひきこもりに関する実態調査」では、狭義の"ひきこもり”に加え、「ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する"準ひきこもり”も加えると、全国に70万人近くいると推定されている。
就学年齢だけではなく、いったん社会に出てからのひきこもりや、長期に渡ってのひきこもりで中年になってしまった者も多くいる。
長期のひきこもりでは、親が老齢期に入って経済的に行き詰ったり、健康面に問題が生じたりして、ひきこもりからの脱出がより困難になる。
"ひきこもり”はなぜ起こるのか? どうすればひきこもり状態から脱却し、社会に参加できるのか? 当事者もその家族も、悩みは深いのではないだろうか。
2.どのように支援するか
平成28年2月28日、旧内山下小学校で、ひきこもり支援従事者のための研修会『キボウ×居場所=生きヂカラ』が催された。
今回の研修会では、主に就学・就職年齢の若者についての話が中心だった。
学校と企業が直結し、経済的自立、結婚、親になるのが標準的パターンであった、戦後型の青年期から成人への移行モデルが機能しなくなってきている現在、増加し続けている若者のひきこもりに対応する支援は大きな課題となっている。
岡山市ひきこもり地域支援センターや、今回の研修会主催団体である、ひきこもり支援センターあすなろの事業報告に続き、NPO法人侍学園スクオーラ・今人の長岡秀貴氏の基調講演。休憩をはさんで、NPO法人山村エンタープライズ、学校法人おかやま希望学園 のびのび小学校、フリースペースあかねの事業所発表が行われた。
地域支援センターは、平成21年度から指定都市に設置されたひきこもりに特化した専門的な第一次相談窓口であり、ひきこもりの状態にある本人や家族を、より適切な支援につなげることを目指し、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等ひきこもり支援コーディネーターを中心に、地域における関係機関とのネットワークの構築やひきこもり対策にとって必要な情報を広く提供するといった地域におけるひきこもり支援の拠点としての役割を担っている。
ひきこもり支援センターあすなろは、ひきこもりになりがちな障害者の居場所や仲間づくり、就労支援を通じて引きこもり支援を積極的に行っている団体である。
このようなセンターや民間のサポート団体の活動は、もっと周知されるべきである。
「学びや新しい自分との出会いを求める全ての人々の為の学校」を設立趣旨とし、年齢無制限で生徒を受け入れている、侍学園スクオーラ・今人の長岡秀貴氏。講演では合宿生活を通じ、朝定時に起きて、三食食べて、 定時に寝るという当たり前の生活習慣の獲得を目指した共同生活を通して、根本的な生活改善・思考習慣改善を達成し、段階的に、就労訓練へと進んでいくプログラムを紹介した。
「(どの試みも)わたしたちの学園と通じるものがある」
事業所発表を行なった、学校法人おかやま希望学園のびのび小学校校長の日名育子さんは、研修終了後、語った。
「(ひきこもり支援に関して、いろいろな場所で)若い人たちが、本当によく頑張っている」
長年教育に携わってきた、日名さんは現在67歳。若い世代の意欲的な活動に頼もしい思いを抱いたようだった。
日名さんが現在関わっているおかやま希望学園は、既存の学校に馴染みにくい小・中学生を受け入れるおかやま希望学園も「寄宿舎生活」を取り入れている。
「早寝・早起き・朝ごはん」は、「生きる力の育成」を目指す同学園の一番土台となる基本的生活習慣である。
児童生徒にこの習慣を身につけさせるのには、忍耐が必要となる。
例えば、決められた時間に起床することが困難な児童にどう対応するか。
叱れば意地になったり、反抗的になったりして、気持ちがこじれてしまうこともある。かといって定時に起床しないことを認めてしまえば、規則正しい生活習慣は身につかない。焦らず習慣を身に着けることを説き続ける努力をすることが重要となる。
長年子どもたちと接してきた教育者としての技量と自信、そして、決して衰えない教育への情熱を持つ、日名さんはこの学園の小学校の校長として適任だ。穏やかな雰囲気と声かけは、子どもに信頼感を抱かせる。
学校には、小・中学校の勉強を保障するという使命もある。この点に関しても、公立学校で積んできた、日名さんのキャリアやネットワークは、学園に大きな恩恵をもたらしている。
3.多くの人々の協力が不可欠
NPO法人山村エンタープライズは、地域おこし活動を生かした不登校ひきこもり支援「人おこし」に取り組んでいる。数年間ひきこもってきた同世代の若者が、シェアハウスに入り、農業や空き家の再生、地域の高齢者の手助けを行い、自らも再生のプロセスを歩む試みだ。代表の藤井裕也さんは、大学時代に国際交流に取り組み、現在29歳。岡山県の地方総合戦略策定委員も務めている。
不登校の子どもたちの居場所づくりに取り組んでいるフリースペースあかねでは、子どもだけではなく、様々な生きづらさを抱えた人々が集い、自由に過ごすことができる。代表の中山遼さんは、自らも長期の不登校の経験があり、20代半ばという若さだ。
基調講演を行った長岡さんは、5年間の教師生活の後、「自分で学校を作る」という目標のため教師を辞め立ち上がった。2004年、長岡さん30歳の時、「NPO法人侍学園スクオーラ・今人」を上田市に開校した。
現在岡山県は、教育に関する大きな問題を抱えている。学校での暴力事件、不登校、いずれも全国ワーストだ。公的機関、民間のNPOやフリースクール、そして地域の力、多くの人や組織が協力しなければ、この問題の解決はないだろう。
年齢も経験も関係ない。若者の情熱と斬新な発想、ベテランの見識と経験、すべての力が結集されることによってこそ、この問題解決の糸口が見つかるのではないだろうか。
(ソーシャルライター:木口仁美)
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