人口1,361人、高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)48.2%の赤磐市仁美地区。全国平均の27.3%と比較してもかなりの高齢化が進んでいる地区といえる。
地区内にコンビニやスーパー、個人商店はなく、買い物となると住民は、バスや車で15分ほどの周辺地区に出かけている。車などの移動手段を持たない高齢者は、唯一JAの運営する直売所だけが日用品や食品の入手先だった。
ところが2013年3月末、同地区を通る路線バスが減便となり、その直売所も赤字を理由に閉店されることになる。「このままでは地域の高齢者のほとんどが買い物難民になりかねない」と、この緊急事態に住民有志が立ち上がった。中心は元赤磐市自治連合会長の歳森正一さん(当時71歳)だ。
<住民の出資金とアイデアで地区唯一の商店を守る>
直売所閉店を知らされた2012年12月、その有志の呼びかけで住民を中心に一口5,000円の出資金を募った。常々地区内の商店の必要性を話し合っていた住民は、この事態に危機感を一層強め、目標金額の200万円を程なく達成。更に歳森さんが200万円を出資。町議も経験し地区への思いも強い。最終的に合計400万円の出資金が集まる。
その資金を元手にJAから直売所を賃貸し改装。卸のルートはそのままで、地元の高齢者が育てた野菜の産直販売を始める。自分のつくった野菜が売れ、収入にもなる事で生きがいになっている。ベテラン主婦スタッフの得意を活かした日替わり弁当も好評を博した。
そんな地域住民の運営する商店「まちづくり夢百笑」は、一人暮らしの高齢者を対象に、店舗で扱う日用品、食料品に加え弁当も、土曜を除く毎日、一軒一軒移動販売を行うことにした。こうした宅配業務は安否確認にもなっている。
<スタッフはボランティア。それでも笑顔のわけ>
これら商品のアイデアと宅配需要の掘り起こしにより売り上げは着実に伸びている。
スタート時、スタッフは、ボランティアで務めていた。定年退職したばかりの60代が中心。調理も配送も売店もスタッフ全員が無報酬だった。今では収益が伸び、僅かばかりだが店で使える商品券という形で報酬が出ている。「年金がもらえるけぇ、稼がんでもええんじゃ」と売店のレジ係の女性は笑顔で答える。
しかし、運営のモチベーションは「この店を続けなければ、地区が立ちゆかなくなってしまう」との危機意識であることに変わりなない。こうしてJAが赤字撤退した直売所は、行政の支援を受けることなく地域住民の手によって見事に再生されたのである。
余談だが、売上の向上と住民の交流を目的に始めた食堂で、試行錯誤で始めたラーメンが、グルメサイトの口コミで評判となり、今では「まちづくり夢百笑」といえば“ラーメンオタク”が一度は訪れたい一店として有名になっている。
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